【公認心理師によるヘリコプターペアレント解説】その定義や特徴、チェックリスト、影響について

ヘリコプターペアレントとは

子どもの成長に悪影響を及ぼす親のことを、世間では「毒親」と呼ぶことがあります。自分はそうではないし、自分の親も違う、そう思っている方が実際にはほとんどだと思いますが、毒親以外にも、過度な育児は色々とあります。共通しているのは子どもが健全に育つ上でふさわしくない環境であるということです。

私の育児相談の事例を見ても、親の関わり方がエスカレートすることで悩みと化しているケースが見受けられるので、ここでは、過度な育児シリーズの①として、「ヘリコプターペアレント」について取り上げていきたいと思います。毒親と比べると、はるかに身近な存在ですので、最後までぜひご一読ください。

 

ヘリコプターペアレントとは? その意味や特徴について

ヘリコプターペアレントの特徴は、過保護、過管理、過干渉。

上空にホバリングするヘリコプターのごとく、子どもにつきまとっては様子を伺い、何かあろうものなら、いつでも急降下して子どものところにかけつけます。

  • 子どものことに頭を突っ込み過ぎる
  • 子どもの生活を管理し過ぎる
  • 子どもの行動を守り過ぎる

などが主な行動特徴です。

これは、もとはアメリカで生まれた言葉で、当初は、高校生や大学生くらいの大きな子どもたちへの過干渉に使われていました。

子どもが先生に聞きたいことを親が代わりに連絡したり、就職の面接について行ったりなど、子ども1人でできること、すべきことにまで親が放っておけずにやってしまうのが典型的な例です。

デンマークではほぼ同じ意味で、カーリングペアレントと呼ばれています。こちらの記事で詳しく解説しています。

「これ以上はNG」という線がわかりづらく気づかぬうちに進行しやすい

今では子どもの年齢を問わず用いられているようですが、静々と進行していることが多いので要注意と言えます。

どういうことかというと、小さい子ほど、“保護”も“管理”も“干渉”もいずれも必要です。その分、ここまでは”保護“だけど、ここからは”過保護“という線に気づきにくく、気づいたら過保護、過管理、過干渉になっていたということが多いのです。それゆえ、”静々と進行しがち“になります。

保護と過保護、管理と過管理、干渉と過干渉、その見分けに使えるような目に見える線が実際にあるわけではないので、いつのまにか“過”になっていたということが起こりやすいため、自ら、「私はどうかな?」「大丈夫かな?」と問いかけていくことは大事でしょう。

 ヘリコプターペアレント度チェック

「自分がヘリコプターペアレントかどうかの診断を!」とネットなどで調べている方もいるようですが、疾患ではありませんから診断というのはふさわしくありません。でもここでヘリコプターペアレント度をチェックすることはできますので、ぜひトライしてみてください。

下記のリストを読み、

  • とても当てはまる…◎
  • まあまあ当てはまる…○
  • あまり当てはまらない…△
  • まったく当てはまらない…✕

でチェックしてみてください。

まずは、ヘリコプターペアレントの予備軍になりうる要素がこちらです。

☐ 子どものことがあれもこれも心配だ

□ 我が子の失敗を見ていられない

□ 子どもが困っている場面に極端に弱い

□ 子どもが泣くと罪悪感を感じてしまう

□ 育児において「こうあるべき」という理想がある

□ その理想から外れることが怖い

□ 我が子かわいさについ甘やかしてしまう

□ うまく回るように先回りして整えることが多い

□ 子どもが泣きそうになるとすぐに手を差し伸べてしまう

□ 子どものご機嫌をうかがっている傾向がある

 

そして、次が将来やってしまいそうな行動についてです。「自分はこの子が中高生になったらこうなるだろうか?」と自問してチェックしてみてください。

□ 子どもの友人関係に口をはさみそう

□ 彼(彼女)ができたらきっとスマホをチェックしてしまう

□ 学校の持ち物を一応チェックしてあげるだろう

□ 子どもの進路は親の思う方向へ持って行くつもり

□ 「私が一番わかっている」と強く感じている

 

基本的にこれらはどれもヘリコプターペアレントに見られる行動傾向です。しかし、親が子どもを心配するのは当たり前ですから、程度の問題でもあるのです。よって、チェックしたものを見直して、

  • すべてが◎であればヘリコプターペアレント度はかなり高い
  • ○が多ければ要注意
  • ○と△が混在ならヘリコプターペアレント度は低い

と言えるでしょう。さらには、もしはじめの予備軍リストすべてに✕がつくような状態も、また別の意味で見直しが必要かもしれません

実際は個別にお話を伺わないとわからないことも多いので、あくまで目安としてご参照ください。

ヘリコプターペアレントの基本心理とさらにその奥にある心理

なぜヘリコプターペアレント化してしまうのかと言えば、やはり我が子が心配だからという心理が一番強いと思います。「イヤな思いをしてほしくない」という思いから、奔走してぬぐってあげたくなるのです。

ただ、私が受ける育児相談の例などを見ると気づくのが、さらにその背後にある心理についてです。

「私は子どもをこう育てたい」「子どもはこうであってほしい」とか、さらには、「自分の理想の子にしたい」のように、親の思うように事を展開させたいあまりに過剰に関わるというケースが見受けられます。

逆に言えば、自分の理想から外れることへの恐怖感から、ならば事前に動こうと干渉してしまっているとも言えるでしょう。

もちろんすべてがこうだとは言いません。純粋に心配し過ぎて子どもに張り付いてしまっているケースもたくさんあります。ですが、実はこういう深い心理が関係していることもあるので、自分はどうかなと振り返るときの参考になさってください。

子どもの行動特徴から見るヘリコプターペアレントが与える影響

後述しますが、ヘリコプターペアレントの場合、ずるずるとそのまま時が経過してしまうことがよくあるため、あとになって子どもの行動傾向にさまざまな問題が出てくることがよくあります。

アメリカの大学が行った「ヘリコプターペアレントが子どもの心に与える影響」に関する調査でも、母親の干渉度と子どもの精神状態には大きな相関があることが分かっています。

この調査は二年制の大学に通う学生を対象に行われたものでした。「自分の母親は過干渉だ」と回答した子ども達は、自分のことを次のように捉えていたそうです。

  • 気分の落ち込みが激しい
  • 不安になることが多い
  • 人間関係が苦手だ
  • 能力が劣っている
  • 現在の生活に満足していない
  • 自主性に乏しい
  • 自分ひとりで決断ができない

ここから見えてくるのは、自信のなさと自立の遅れです。小さいころから親が過剰に関わってきたことで、その子は自分で考えたり、判断したり、決断したりする回数が通常よりも極端に少ないことが考えられ、それにより、大きくなっても自立できずにいて困ってしまうのですね。

小さいころは1人行動ができないのは当たり前でもあるので気づきにくいですが、大学生になり、いざ、「自分で行動するぞ」と思っても、基盤ができていないためとまどってしまう……。あとになって困ることが多いのがヘリコプターペアレンティングなのです。

まずは気づくことが大事。対岸の火事にせず、「もしかして」と思うことから

ヘリコプターペアレントは、もとは保護、管理、干渉が基軸にあるので、親が良かれと思ってやっていることも多く、「私は熱心な親だから大丈夫」と気づくのが遅れることが非常に多いです。

また子どもの方も、当然ながら自分の親のやり方しか知りませんから、それがスタンダードだと思うため、「変だぞ、距離が近いぞ」のようには思いにくいのです。

保護、管理、干渉は、適切な度合いが必要なのであり、もしそれらが過剰になれば、その結果、子どもの行動は完全に親の管理下に入ることになります。「○○ちゃんのためを思って」と言うと聞こえがいいですが、実際は親の思う「理想の子」に導くためのソフトコントロールになっているかもしれません。

毒親やモンスターペアレントと比べると、ずっとずっと普通に起こりやすいのがヘリコプターペアレントです。自分とは関係のないことと対岸の火事化せずに、「私はやり過ぎになっていないかな?」と自ら気づこうとすることが大事になります。

 

以下の記事では、「自分がそうかも」と思ったときの対処法についてご紹介していますので、本記事を読んで気になった方はぜひご参照ください。