【公認心理師によるカーリングーペアレント解説】その定義や特徴、チェックリスト、影響について

カーリングペアレント

子どもの成長に悪影響を及ぼす親のことを、世間では「毒親」と呼ぶことがあります。自分はそうではないし、自分の親も違う、そう思っている方が実際にはほとんどだと思いますが、毒親以外にも、過度な育児は色々とあります。共通しているのは子どもが健全に育つ上でふさわしくない環境であるということです。

私の育児相談の事例を見ても、親の関わり方がエスカレートすることで悩みと化しているケースが見受けられるので、ここでは、過度な育児シリーズの②として、「カーリングペアレント」について取り上げていきたいと思います。毒親と比べると、はるかに身近な存在ですので、最後までぜひご一読ください。

カーリングペアレントとは? その意味や特徴について

毒親やモンスターペアレントという言葉は広く知られていますが、今回ご紹介する”カーリングペアレント”は初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。

これは、冬季オリンピックで人気のスポーツ“カーリング”からつけられた呼称です。

試合では、選手たちが氷の表面を滑る”ストーン”を進ませるために、ブラシで氷をゴシゴシ擦り、滑らかにしていますよね。カーリングペアレントは、親が”子ども”の進んでいく道を滑らかにならしてしまいます。

「我が子がイヤな思いをしないように」

「困難や失敗などで泣かないように」

と、親が先回りして子どもが進む道を整えていく様子がカーリングに似ていることから、この名がつけられました。

言い得て妙、絶妙なニックネームです。

この言葉が示唆しているとおり、その特徴は、過ぎたるケア。過保護、過管理、過干渉が典型です。

子どもが進む道を、過保護、過管理、過干渉の三本柱でガードし、脱線しないように関わっていくのですね。

 

なお、同じような状態を表す類語に「ヘリコプターペアレント」という呼び名がありますが、基本的には同義とされています。ヘリコプターペアレントはアメリカ発祥で、もともとは高校生や大学生の子に対する子育てに関して用いられていた言葉。

一方、今回のカーリングペアレントは寒い国・デンマーク発祥で、むしろ幼少時からの継続的な過保護傾向を指す言葉。その点では若干のニュアンスの違いはあるでしょうが、大枠では同じことを意味しています。

これが何を示唆しているかと言えば、どこの国でも似たようなことが問題視されているということ。世界的に過保護傾向の子育てが広がっていると言えるのかもしれません。

過保護は保護の延長線上にあるからこそさじ加減が難しい

過保護に関しては、日本も然りです。「昔と比べたら……」のようなお小言を両親から言われたことがある方も少なくないでしょう。親が若かった頃と比較すれば、明らかに物質的にも豊かですし、便利な世の中になってきて、たしかに恵まれていることも多い昨今です。

ただ、だから過保護化しているのかというと、それだけが理由ではないと思っています。育児はそもそもさじ加減が難しいので、そのせいでいつの間にか過保護に……という状態になりやすいのではないかと。

 

私が育児相談でよく聞かれる質問に、

「どこまでやってあげたらいいのか」

「どこまで受け入れてあげたらいいのか」

というものがあります。非常に頻繁に尋ねられます。目に見える線があるわけではないので、すごく難しいんですよね。

親は子どもの“保護者”ですから、しっかりと守っていかなければなりません。でもやり過ぎると過保護になってしまいます。保護はマストなのに、やり過ぎると過保護でNG。同じ線の延長上にあるからこそ、まちがいが起きやすいのだと思います。

「自分ではそう思っていなくても、いつの間にか気づいたらカーリングペアレントになっていた!」

ということが起こりやすいのですね。とくに日本人はおもてなし上手ですし、よく気が回るので、数ある不適切な育児の中でも、このカーリングペアレントはもっとも陥りやすいと感じています。

カーリングペアレント度チェック

ヘリコプターペアレント同様、カーリングペアレントについても、現状をチェックしてみるのはいい目安になると思います。両者は似通っていますので、今回は別の切り口でのチェックリストにしてあります。

ヘリコプターペアレントのページでは、親側の心理傾向や行動特徴のチェックリストをご紹介したので、ここではもっと具体的な事例や子どもに現れがちな行動傾向をまとめてみました。両方のページでチェックをしていただくと、よりご自身の育児傾向がつかめると思います。

 

今回も同様に、下記のリストを読み、

  • とても当てはまる…◎
  • まあまあ当てはまる…○
  • あまり当てはまらない…△
  • まったく当てはまらない…✕

で評価してみてください。

 

□ 折り紙やお絵かきなどは親が完成させることが多い

□ 面倒なことはやりたがらず「ママ・パパやって」とよく頼まれる

□ 習い事をやりたいと言ったらすぐに申し込んであげる

□ その後、やめたいと言ったらまたすぐに退会する

□ うちの子は根気よく取り組むことが苦手である

□ 子どもができなくて泣くと親が代わりにやってあげる

□ うまくいかないと癇癪を起こす

□ 友だちと協調して遊ぶのが苦手だ

□ 他のママやパパよりもヘトヘトになっている

□ 小さいときは叱らずにきたが、最近は叱ってばかりだ

 

以上は、カーリングペアレントが行われているご家庭で、お子さんが4~5歳あたりのときに見られることが多いものを挙げています。

ただ、これも頻度や程度の問題ですので、

  • すべてが◎であればカーリングペアレント度はかなり高い
  • ○が多ければ要注意
  • ○と△が混在ならカーリングペアレント度は低い

と言えるでしょう。

実際には、その子の気質も関係してきますので、このチェックだけでは断定はできません。個別にお話を伺わないとわからないことも多いので、あくまで目安としてご参照ください。

カーリングペアレントに陥りやすい心理

カーリングペアレントの心理については、「我が子にはのびのびすくすく育ってほしい」という純粋な思いが根本として関係していると考えられます。もちろん、これ自体は親ならだれもが願うものなので、悪いことではありません。

ただ、それを過剰に願うあまり、

  • いつもいつも楽しい気分で過ごしてもらおうと親側が頑張り過ぎてしまったり
  • 少々のつまづきや困難やトラブルでさえも、「大変だ!」と事前に察知し、先回りして解消してしまったり

というような心理が働いてしまうのです。

 

困ったときは親が助けてくれる、たしかにそうです。しかし、カーリングペアレントの場合、その助けがあらゆる場面で登場してしまいます。

しかも、子どもが気づく前に道を整えてお膳立てしてしまうことも多いので、子どもには、「世の中は楽ちんだ」と映り、なんでもスルスル~と事が進むことに慣れていってしまいます。

カーリングペアレントは、子どもがてこずっていると、「かわいそう」という気持ちになりやすく、子どもの負の感情に直面するのが苦手です。親はだれだって子どもの負の感情は苦手ですが、それが過度になっている分、本来なら子ども自身で向き合った方がいいことや乗り越えた方がいいことまでも、親がぬぐってしまうのです。

子どもの行動特徴から見るカーリングペアレントが子どもに与える影響

小さい頃から、親が先回りして道をならしておいてくれるので、つまづいたり、失敗したり、イヤな思いをしたりすることが少なくなります。それにより、ご機嫌の時間も多いかもしれないですし、自己肯定感も高く、楽観的かもしれません。

ですが、このような良い側面は残念ながらずっとは続きません。

なぜかと言えば、年齢を追うごとに、子どもは社会との触れ合いがどんどん増えていきます。幼稚園や小学校、習い事など、社会の中で過ごす時間が増えていくわけです。それにともない、親と過ごす時間は少なくなっていきます。

すると、いきなりそれまで見たことがないデコボコの道に遭遇することになります。親が幼稚園や学校の教室に入り込んで、我が子の通る道をならし続けるわけにはいかないですからです。年齢相応の経験を積んでいれば、「たいしたことない」「これくらいへっちゃらだ」と思えるような出来事が、耐え難い試練として捉えられてしまうこともあるでしょう。

 

その段階で年齢相応の精神力が備わっていないと、

  • クラスについていけない
  • 友だちと共有できない
  • つらいとすぐに諦めてしまう
  • 自分で感情を抑えられない
  • 行き渋りを起こす

ということも起こりうることです。

 

また、いつも先回りして整えておいてもらったために、

  • 自ら考えて動こうとしない
  • 忘れ物が多い
  • 自己管理が苦手

という問題も出てきがちです。

日本人の細やかさが災いすることも!やり過ぎを意識的に振り返ろう

先述したように、私はカーリングペアレントが数ある関わり方の問題の中で、もっとも起こりやすいと考えています。“日本では”という意味です。

私は海外暮らしが長く、他の国の子育てをたくさん見てきているのでわかるのですが、日本人の子育てはとてもとても細やかです。正直、海外の子育てはもっとテキトーです。

細やかなことは長所なのですが、それがときに災いし、色々なことに気づき過ぎて、つい手を出し過ぎてしまう。そうなるとデメリットになってしまいます。

日本はもともとの基準が高い分、やり過ぎが起こりやすい環境なので、その点は意識的に振り返るくらいでちょうどいいと思います。

 

以下の記事では、「自分がそうかも」と思ったときの対処法についてご紹介していますので、本記事を読んで気になった方はぜひご参照ください。