「上の子可愛くない症候群」という呼称について考える
近年、「上の子可愛くない症候群」という言葉をメディアやSNSなどで目にする機会が増えました。すでにこの言葉を知っている方や、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
今回はこの“呼び名”そのものに注目して、この呼称が持つ意味や背景、そしてこの言葉が今の時代においてどのような役割を果たしているのかについて考察していきます。
「上の子可愛くない症候群」とは何か
「上の子可愛くない症候群」は、その名前が示す通り、「下の子と比べて、上の子を可愛いと思えない」と感じる親の心理状態を指す言葉です。
ここで注意が必要なのは、これは医学的な病名ではないということです。
「症候群(シンドローム)」という言葉はもともと医療の世界で使われてきたものですが、最近では病気でなくても、ある特徴的な心理状態や行動にこの言葉が使われるようになっています。「上の子可愛くない症候群」もそのような言葉の一つであり、育児における親の心の状態を、わかりやすく言語化したものと言えるでしょう。
なぜ今、この言葉が注目されているのか
ここ数年で「上の子可愛くない症候群」という言葉をよく聞くようになりましたし、ここ最近は、私の相談室でも親御さんの方から「上の子可愛くない症候群で悩んでいる」とおっしゃる方が明らかに増えています。
こう見ると、ここ最近急に増えている現象のように思えるのですが、私はこの心理状態自体は決して新しいものではないと考えています。
むしろ、昔からあった悩みにも関わらず、「親が子を可愛いと思えないなどと言ってはいけない」という無言の圧力の中で、言葉にされることがなかったのではないでしょうか。
そうした中で「上の子可愛くない症候群」という言葉が登場したことで、これまで言葉にできなかった葛藤が可視化され、自分の状態に気づくきっかけとなっている方が増えているのでは、そんな風に考えています。実際に、ネットで偶然「上の子可愛くない症候群」という言葉を見つけ、「これ私だ!」と。ページを開くと、まさに自分がなんとなく感じていた心の状態が言語化されていて、自分がここ最近ずっと悩んでいたのはこのことだったんだと気づいたという方もいます。
言葉にすることで、気づけることがある
私自身、こうした育児の状態や現象に”名前”をつけることについて、当初は慎重な立場をとっていました。言葉が一人歩きしてしまったり、表面的に扱われてしまうことで、当事者の苦しみが軽んじられるのではないかという懸念があったからです。
実際に、「上の子可愛くない症候群」という呼称が出始めた頃、メディアから寄稿依頼を受けた際にも、慎重に扱うべきテーマだと感じていました。しかし、相談の現場を通し、この言葉が「私はこれで悩んでいる」という認識の助けになっていることを感じ、私自身の考えにも変化が生まれました。
「名称がつくことで悩みがはっきりするのではないか」「改善に向けて取り組みやすくなるのではないか」こんな風に考えるようになったのです。
名前があることで、自分の悩みを客観視しやすくなり、対処への一歩を踏み出しやすくなる。そうした「“気づき”のきっかけとしての言葉の力」を改めて実感しています。
この呼び名があることが相談するきっかけに
上記で、「昔からあったものだと思う」と書きましたが、以前はとても口に出すことなんてできなかった、だからそんな悩みは存在しないと思われていたのだと思います。
私のところに相談に来られる方も、「自分の子が可愛くないなんて、こんなこと人に言えない」とおっしゃいます。
「夫・妻にも言えない」
「親にも言えない」
「ママ友にも言えない」
「でもそのままではダメだ」
「なんとかせねば」
と心の中で右往左往しながら、全く知らない私になら言えそうだ、と勇気を出して相談に来られるのです。
そのくらい、口外しにくい悩みなのですから、もし「上の子可愛くない症候群」という言葉がなかったら、自分の心の中にあるまま悩み続け、何も動けなかったかもしれません。そう思うと、この呼び名が広まったことには意味があると感じています。
悩みの“可視化”が、改善への第一歩に
もし「上の子可愛くない症候群」という言葉がなかったら、自分の状態に気づけない人もいるでしょう。そして気づけなければ、どう改善していったらいいのかも見出すことができません。
そう考えると、この呼び名ができたことを無駄にしてはいけないと思っています。
「上の子が可愛くない」と感じる状態が続くのは、良いことではありません。長引くことで、影響が一時的ではなく長く続く生きづらさになってしまうので、その違和感に子ども自身が気づく前に、親が向き合うことが大切です。
心の中で悩みをぐるぐるさせているより、「私はこれで悩んでいるんだ」とその状態を認め、改善に向けて腰を上げていきましょう。
このポジ育ラボブログでも、「上の子可愛くない症候群」や「我が子が可愛くない」という悩みについて、いくつも記事として取り上げていますので、ぜひ読んでみてください。